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「イスラム世界はなぜ没落したか?」の書評 投稿者:宮田律
 2004年02月22日(日) 22時03分04秒
  バーナード ルイス/[著]臼杵陽:今松泰:福田義昭/[訳] 出版社:日本評論
  社価格:2,500円. 「イスラム世界はなぜ没落したか?」
  
   著者、バーナード・ルイスは、ロンドン大学やプリンストン大学で教鞭をとったアラブやオスマン帝国史研究の権威として評価を受けている。他方で、ユダヤ人の彼は、「シオニスト(パレスチナにユダヤ人国家を建設することを考えるイデオロギーをもつ人間の代名詞)として、親イスラエル的な言動でも批判を浴びてきた。ブッシュ政権によるイラク戦争を推進したタカ派の「ネオコン勢力」の思想的背景を提供した人物ともいわれている。
   本書は、イスラム世界は邦題の通り中東は西洋に比べなぜ発展から取り残されてしまったのかという問題意識によって書かれている。ルイスは、西洋が中東に比べ劣ってしまったのは、自由・解放の概念がないからだと結論づけている。言論の自由、女性の解放、暴政からの解放などがイスラム世界には欠如していると著者は主張する。全体を貫くテーマは、イスラム世界は、どのような歴史的変遷を経て、西洋から劣ってしまったかというものだろう。
   「西洋」「イスラム世界」という用語すらも不用意に使用し、正確に、厳密にそれらの言葉を用いているとは思われない。西洋の優位性を明確に説くという点で、人種的な偏見すらも感じてしまう内容になっている。本書を読んでいて「白人の負担」という西洋帝国主義を鼓舞した表現すらも想い起こしてしまった。まさに、イラク戦争は、ルイスが抱いているようなイスラム世界を「文明化」というような思い上がった一部欧米世界(特に米国と英国)の考えに基づいて行われたのではないかと思えるほどだ。
   ルイスは、イスラム世界が発展から取り残された歴史的プロセスを主にオスマン帝国の歴史から引いている。歴史家のルイスがイスラム世界の現状や問題点を綿密で、実証的な研究に基づいているとは到底思えない。彼は、従来蓄積した断片的な知識を、現在のイスラム世界の矛盾やさらにイスラム過激派の暴力的行為に強引に関連づけている。本書を読んで、なぜ現在イスラム過激派が台頭したり、イラクで米英軍に対する排斥運動や武力攻撃が起こったりする背景が理解できることはないだろう。
   ともあれ、現在の米国の中東研究は、ルイスなどイスラム世界に対するタカ派的立場と、またムスリムに対して穏健な考えを主張する研究者の二極に分かれているが、イラク戦争などブッシュ政権の中東政策の思想的背景になっているのは、ルイスなどの考えや主張である。ブッシュ政権の中東政策がどのような考えを背景に推進されているか、その背景について知る上では一読の価値があるかもしれない。
  


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