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宮田律の掲示板


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ラフール・マハジャンほか著、益岡賢・いけだ よしこ編訳『ファルージャ2004年4月』の書評 投稿者:宮田律
 2004年10月07日(木) 15時08分05秒
   本書は、今年四月に日本人三人の人質事件が発生したファルージャの町での米軍の凄惨な軍事的制圧の実態を、筆者たちの体験を通じて伝え、米軍がクラスター爆弾、狙撃兵などを用いて無差別にファルージャの人々を殺害していった事実を明らかにしている。
   米軍がファルージャに注目したのは、三月三一日に米国人の警備会社の社員が武装勢力によって殺害され、炎上した車の中で黒焦げになった死体が橋から吊るされたことを契機にするものだった。事件に衝撃を受けた米海兵隊は、武装勢力の「掃討作戦」を開始した。本書は、その米軍の軍事行動が過度なものであったことをリアルに伝えている。今年四月に六〇〇人以上のイラク人が米軍の攻撃によって殺害されたが、そのうちの二〇〇人が女性で、一〇〇人以上が子供だった。
   ベトナム戦争の際に、米軍特殊部隊のある大佐がベトナム南部のベントレの町について「われわれは町を救うために、破壊しなければならない」と述べたことが本書の中で紹介されている。まさに、ファルージャの町の住民たちは、同じ運命に遭い、米国の乱暴な軍事作戦の犠牲となった。ファルージャでは二つのサッカー場が墓地に変わるほど、大量の殺戮が米軍によって行われた。米軍の狙撃兵の攻撃対象は、女性をも狙うもので、また狙撃兵の活動のために、ファルージャでは、負傷者の病院への運搬も思うに任せなかった。
   本書の内容は、ファルージャにおける戦闘の実態を紹介することによって、あらためてイラク戦争の正当性を問うものとなっている。米国のブッシュ大統領は、イラクでサダム・フセインの暴政に代わって、「民主主義」を確立すると豪語した。しかし、その実態はどうであったろうか。二〇〇四年四月にファルージャで発生したことは、米国が唱えた「イラクにおける民主主義の確立」が虚構であったことを鮮明に表している。米国は民意を尊重するどころか、ファルージャの人々の人権を残酷な方法で侵害した。
   ファルージャで米軍と戦う「ムジャヒディン(イスラムの聖なる戦士)」は、民衆の抵抗の中から生まれたものだ。米軍が武装勢力だけでなく、市民をも軍事的制圧の対象にしたことが、武装勢力の数を増やし、その抵抗を強めることになった。これは、民主主義を軍事力で確立するという発想が極めて不合理で、負の効果しかもっていないことを明白に表している。
   ファルージャには純真で、信心深い人々が居住し、また彼らは農耕に基礎を置く部族社会を構成している。しかし、日ごろはおとなしい人々でも、家族や親族が犠牲になれば、ムジャヒディンとして米軍に抵抗するために、いつでも武器を手にすることになる。本書の著者の一人、ラフール・マハジャンは、ファルージャの人々は良き友だが、敵に回すと恐ろしいと語っている。
   ファルージャでの戦闘は、イラク戦争の矛盾を典型的に表している。四月に日本人のNGO関係者などが人質になった時、自衛隊の撤退が武装勢力によって要求された。これは、米軍の占領に対する反発や抵抗が強い中では、文民による復興支援活動が困難であることをあらためて示す事件であった。武装勢力は、自衛隊を米国の占領に対する「協力者」として見ている。本書は、米国のイラク占領における粗雑な手法がイラクの復興をいよいよ困難にし、またイラク戦争が矛盾に満ちたものであることをあらためて教えてくれる。
  
  
  


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