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書評/ジェイソン・バーク著(坂井定雄・伊藤力司訳)『アルカイダ/ビンラディン  と国際テロ・ネットワーク』 投稿者:宮田律
 2004年12月14日(火) 12時37分17秒
   本書は、アルカイダの成立過程、思想的背景、アルカイダの指導者であるオサマ・ビンラディンの生い立ちや活動歴、また思想形成などアルカイダを多角的に分析している。アルカイダの「脅威」を誇張するのではなく、その性格や活動を冷静に解明する。著者は中東や、アフガニスタン、パキスタンなどで現地取材も数多く行っているが、本書はまさに労作といえるだろう。
   ビンラディンの出身国であるサウジアラビアなどイスラム諸国が正しいイスラムの道から逸脱しているのは、「不正義」であり、この不正義は大量の失業者など社会的弱者を生み出すなど不平等ももたらしている。イスラムは「正義」や「平等」を特に重んずる宗教であるが、イスラム諸国の為政者たちは、イスラム法に基づく統治を行っていないので、抵抗されるべき存在なのであるとビンラディンは考える。
   また、本書によれば、ビンラディンは、中東の偽善者の政府とそれを支援する「シオニスト・十字軍」同盟を終わらせることを目指している。イスラム世界に腐敗や抑圧をもたらしているのは、「シオニスト・十字軍」同盟の不正な政府への支援なのである。彼を反米テロに駆り立てたのは、善と悪の闘争を国際的次元でとらえる発想だ。
   著者は、一九九八年のケニア・タンザニアでの米大使館爆破事件の報復として、米国がアフガニスタンとスーダンにミサイルを打ち込んだことが、中東の偽善的支配者よりも、米国を攻撃目標にする考えの正しさを証明することになったと説明する。それを契機に米国は傲慢で、全世界の貧しいムスリムの感情に関心を持たない国家だと見られるようになった。
   本書で書かれてある通り、テロは正当化できるものではない。しかし、著者が訴える通り、テロがなぜ発生するのかを問い続けない限り、イスラム過激派による「ジハード(聖戦)」は継続することであろう。イスラム過激派の主張を受け入れることはなくても、理解することがなければ、今後国際社会はテロと向き合うことになることを本書は明快に教えている。
  


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