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ロンドン同時多発テロの背景 投稿者:宮田律
 2005年07月30日(土) 09時59分08秒
   7月7日にロンドンで発生した同時爆破テロの事件の背景が次第に分かってきた。実行犯のうち3人がパキスタン系で、また1人がジャマイカ系の英国人だった。西ヨーロッパのムスリム移民は、英国、フランス、ドイツの3カ国に集中している。特に英国のムスリムは、ジャマイカなどカリブ海やインド亜大陸の旧植民地から移住してきた人々だ。英国のムスリム人口は150万人余りとも見積もられているが、そのうちの3分の2は、インド亜大陸からの移民で、パキスタン系の人々が最大のコミュニティを形成している。
   英国では、1991年の湾岸戦争の際に、ムスリム・コミュニティから英国軍の参戦に対して猛烈な反発が生まれたが、それはサダム・フセインの意思決定とは関係のないイラクのムスリムが殺害されたことに対する反感や同情からだった。2003年のイラク戦争とその後の英国軍の駐留に対して、英国のムスリム社会に同様な感情が生まれたことは間違いない。英国のイラク政策に対する反発は、英国で暮らす一部のムスリムを過激化させている。
   英国など西ヨーロッパ諸国では、失業問題を背景にして安価な労働力を供給する移民は好まれなくなった。また、移民がヨーロッパ・キリスト教的価値観とは異なるムスリムだとなおさら拒絶反応が強い。ヨーロッパに移住したムスリムの多くは、権威主義的な政治を逃れ、また経済的にもより豊かな生活を送ることを望み、さらにより良い教育機会を得ようとした。しかし、文化の相違からムスリム移民に対する反発は根強く、彼らの多くはヨーロッパで強い疎外感を抱かざるをえない。
   ヨーロッパ社会との様々な軋轢や疎外を感ずるムスリムたちが、より所とするのはイスラムの宗教活動だ。こうしたムスリムの宗教活動の中で過激なイデオロギーが普及したとしても不思議ではない。ヨーロッパのムスリムを支援する組織の中には、福祉や教育など社会事業を施しながら、自らの過激な主張をムスリムの若者たちに植えつけるものもある。
   これらの組織の一部はパキスタンを拠点にしている。実際、今回の同時多発テロの実行犯の中には事件前にパキスタンを訪れた者もいた。パキスタンでは、公教育が整備されず、貧困層はモスクや神学校に子弟を預けるが、こうしたモスクや神学校で過激なイデオロギーが浸透し、イスラム過激派が勢力を伸長させるようになった。パキスタンは、アフガニスタンのイスラム原理主義組織のタリバンを生んだ国で、またアルカーイダも活動する国だ。
   アルカーイダは、イスラム世界の中心に位置するエジプトや、レバノン、シリアなどイスラム諸国政府をターゲットにすることはなかった。オサマ・ビンラディンやアブ・ムサブ・ザルカウィなどアルカーイダの指導者たちは、欧米諸国を直接のターゲットにし、欧米やイスラエルの影響力をイスラム世界から排除することをしきりに訴えている。また、ロンドンでの同時多発テロでムスリム社会への嫌がらせが繰り返されるようになった。彼らがヨーロッパ社会の中でさらなる疎外感や、貧困の中で暮らすようだと、英国をはじめとするヨーロッパも、アルカーイダに影響されるイスラム過激派のテロの標的となり続けるに違いない。
  


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