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新憲法成立後のイラク情勢 投稿者:宮田律
 2005年11月27日(日) 22時11分25秒
   イラクで新憲法草案が承認された。これによって、12月15日に国民議会選挙が行われ、12月31日までに正式な政府が成立することになった。新憲法が承認されたものの、イラクでは毎日のようにテロが発生し、政情が容易に安定する様子はない。11月2日にもバグダッド南部のムサイブでシーア派のモスク付近で自爆テロがあり、20人が亡くなった。
   少数派で、フセイン政権時代に様々な特権をもっていたスンニ派には新憲法に対する不満が強い。新憲法の中には連邦制が盛り込まれたが、連邦制が実施されれば、クルド人やシーア派が自治を獲得することになる。すでにクルド人は湾岸戦争以降、10年以上も実質的な自治を行っているが、シーア派が自治を得れば、イラク独立後初めてのことで、シーア派人口が多い九つの州が統合され、一つの国家のような体裁をもつことになる。
   スンニ派が連邦制に反対するのは、石油と天然ガスは全国民の共有財産で、その収益は人口比で公正に分配されると新憲法では定めているが、しかしイラクの石油や天然ガスは北部のクルド地域や、南部のシーア派地域に集中しており、これらの地域で自治が認められれば、収益が本当に公正に分配されるのかという懸念がスンニ派には強くある。
   また、新憲法ではフセイン大統領時代に政権政党であったバース党の活動に深く関わっていた者を公職から追放することになったが、スンニ派には旧バース党員が多く、これもまたスンニ派が今後の政治プロセスから排除されるのではないかとスンニ派は疑念を抱いている。憲法を見直す委員会が設置されることが決まっているが、そこでも連邦制や旧バース党員に関する条文に変更がなければ、スンニ派は新しい政治プロセス自体を否定し、スンニ派の武装集団の活動が活発になりかねない。
   フセイン元大統領の裁判が始まったが、米軍など外国軍がフセイン政権を崩壊させた後に行われる裁判が正当性をもつかとフセイン元大統領は法廷で語った。同様な思いは多くのスンニ派住民たちに共有され、彼らには米軍の占領下での裁判に対する強い反発がある。フセイン元大統領の裁判の判事は、クルド人やシーア派によって占められ、スンニ派の人物はいないが、こうした裁判の在り方も公正さを欠くものとスンニ派には見られている。フセイン裁判の成り行きも今後のイラク情勢に影響を及ぼすに違いない。
   「イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)」は、フセイン政権の弾圧を逃れてイランに亡命していた組織で、その活動はイランの意向を反映していると見られ、憲法起草の段階でもSCIRIの指導者であるハキーム師は、イラン政府と協議しながら憲法に関する意見を表明していたと他の勢力から非難された。シーア派の国であるイランのイラク内政への干渉もスンニ派からは反発をもって見られている。
   イラクでは、外国人ジャーナリストだけでなく、イラク人ジャーナリスト、弁護士、教員などインテリ層もテロの標的になっている。筆者が九月にクウェートで会ったイラク人ジャーナリストは十月に殺害されそうになったとその恐怖を伝えてきた。また、新たに警官になった者にはシーア派の民兵出身者が多く、フセイン政権時代に弾圧を受けた怨念からスンニ派に対する「復讐」をしている者たちがいる。現在のイラクの秩序は米軍の駐留によって維持されている印象で、イラク人自身による安定とはほど遠い状態だ。
   米国では米軍の即時撤退を求める世論が半数を超えたが、新政府ができても米軍が撤退すれば、国内の安定は保障されない。スンニ派の武装集団はフセイン政権崩壊後の政治的展開に対する不満からシーア派や米軍に対するテロを行っているし、またザルカウィなど国際的なイスラム過激派の活動もある。また、米軍の撤退は石油などイラクの天然資源を米国が確保することを困難にする。治安状況が全く改善されない中で米軍が撤退すれば、戦争や駐留の意味も問われかねない。日本の自衛隊も同じ立場に置かれている。


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