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さらに混迷を深めるイラク情勢 投稿者:宮田 律
 2006年07月16日(日) 13時22分10秒
   5月20日にマリキー首相を首班とするイラク新政府が誕生した。しかし、イラクでは連日のように、数十人が犠牲となるテロが発生し、治安情勢は一向に改善されず、宗派・民族対立は深まるばかりである。新政府の最も優先すべき課題は治安の確保だが、しかし宗派・民族対立の背景になっている問題が改善されなければ、それも難しい。
   マリキー政権は、まずシーア派、スンナ派、クルド人によって主に構成されるイラクの宗派や民族に公平に権力を分配することを考えた。その結果、外交政策を担当する閣僚を複数にし、「外務大臣」をクルド人、「外務担当国務大臣」をスンナ派が担当するなどの措置を講じた。その他にも「国民対話担当」「国民議会担当」など同様な職務を管掌する複数の国務大臣が生まれている。
   スンナ派が新政権に最も期待しているのは憲法の改正で、北部油田地帯をクルド人に、また南部油田をシーア派の支配下に置く連邦制の見直しをマリキ政権に強く迫っていくだろう。しかし、シーア派やクルド人が連邦制を強く支持しているため、マリキー政権は当初から難しい舵取を迫られている。かりに連邦制の撤回が行われなければ、スンナ派閣僚たちが辞職し、新政府が崩壊する可能性もある。
   6月8日に「イラク・アルカイダ機構」のザルカウィ容疑者の殺害が発表された。組織の名前からもうかがえるように、ウサーマ・ビンラーディン容疑者の「アルカーイダ」に共鳴し、イスラーム世界から米国やイスラエルを放逐することを唱えていた。米兵の犠牲者を多く出すことによって、米軍のイラクからの撤退を目標にいていた。しかし、最近ではシーア派住民もテロの標的とするなどその過激な行動はイラク国内でも敬遠されつつあった。
   イラク国内で支持を失っていたものの、イスラム世界を「侵食」する米国への抵抗を呼びかけるザルカウィ容疑者やビンラーディン容疑者の訴えはイスラーム世界の「怒れる若者たち」の間で求心力をもつようになっている。ザルカウィ容疑者が亡くなっても、米国のイスラーム世界への介入姿勢に変化がなく、またパレスチナ問題にも進展がなければ、彼に倣ってイラクを含む世界各地で反米テロを行うイスラーム過激派は増殖を続けることだろう。
   イラク開戦以前、米国のネオコン(新保守派)と呼ばれる勢力は、イラクの石油収入によってイラクの戦後復興を図り、チェイニー副大統領が最高経営責任者(CEO)を務めた石油企業ハリバートンもその復興事業に携わる予定だった。しかし、このような楽観的見通しはブッシュ政権にはすでにない。イラク国内の混迷からイラク石油が国際市場に復帰できていないことも、最近の原油高の重大な背景となっている。
   ザルカウィ容疑者の死亡が公表された日、イラク新政権で治安を担当する内相や国防相、国家安全保障担当相の治安関連三閣僚が国民議会によって承認された。しかし、治安面でもシーア派の民兵11万人が内務省の治安部隊に編入されるなど、シーア派を優遇する措置がとられている。さらに、シーア派国家のイランはイラクのシーア派民兵に武器や資金を与え、シーア派支援の姿勢を強めるようになった。新政権が発足しても、宗派や民族対立は先鋭化し、イラクは混迷を深めるばかりだ。
  


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